今日も、わたしはよわこです。
あたたかくなったら、ベランダの植木鉢がポンポンと花を咲かせました。ラベンダー、ローズゼラニウム、ガザニア …みんな母がもらってきた鉢植えです。
「よわこー、お水やっといてねー!」 …またか。母は忙しくて、気が向いたとき水をやるだけ、ちっとも世話しません。うちにもらわれた子はかわいそう。生き残るのは大変だろうに、エライわ!みんな、自立してるのね!…と感心していたら、ひとつだけ、つぼみのままぐったりしている鉢がありました。駅前のスーパーの新装開店でもらった、ちいさなバラの鉢でした。
「あたくし弱いんです。」 …バラのつぼみが言いました。「見てください。こんなにお肌がカサカサ。もしもお水をくださったら、きれいに咲いて差し上げられるのに…」わたしはあわてて水をやりました。すると、みるみる元気になりました。次の日見に行くと、またしてもバラがぐったりしています。「あたくし病気なんです。」と、つぼみが言いました。「もうだめ…。もしもスプレーしてくださったら、きれいに咲いて差し上げられたのに…さようなら…」あわてて殺菌剤を買ってきてかけてやると、もとどおり元気になりました。次の日も、バラはやっぱり元気がありません。「…ガラスに映るあたくしの髪はボサボサ、なんてみすぼらしい身なりなんでしょう!」わたしは枯れた葉っぱを取って、余分な枝をカットしてあげました。そして次の日も。「ほんのたまにでいいんです。ごちそうが食べられたら…あなたはご存知ないかもしれませんけど、花を咲かすのって、とても疲れることですのよ。」
…遠回しに命令するタイプみたい。バラはわがままって『星の王子さま』に書いてあったけれど本当ね!しかたなく栄養剤を買ってきて、鉢にのせてやりました。 すると…… ついに花が咲きました。わーい!オレンジ色の可愛い花です。「あたくし、どうかしら?」「とってもきれい!」ホメてあげると得意になって、次々咲きました。「もしも、明日もきれいって言ってくださったら、明日もきれいに咲いて差し上げると思うわ。」「ハイハイ。」 …ほんとうに手のかかる子!だけど、ベランダが明るくなって、めでたしめでたし。ところが。バラに刺激されたのか、それまで静かだった花たちまで、あれこれ要求をはじめたから大変。「私の場所は、すぐ日陰になるので風邪を引きそうなんです。」「私はアレルギー体質で、ローズゼラニウムさんの匂いが苦手なんです。」「あら、あたしだってラベンダーさんの匂いはキライよ!」 花たちが喧嘩しないように、一日かかって鉢を並べ替えました。
…やれやれ、実はみーんな、わがままだったのね。 「よわこー、コーヒーお願ーい!」 ……母も!