あちこたねぇ
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宮原芽映
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デート・デビュー ②

よわこの日記 ARCHIVE   Posted on 05 23rd, 2008   Yowako  

よわこの日記 028
次の日も、やっぱりわたしはよわこでした。
いよいよデートの日。…気が重いです。2時に渋谷のモヤイ像前へ行きましたが、ニシ先輩はまだ来てませんでした。東横デパートを3周したけど、先輩は来ません。もしかして電車が遅れたのかも…。「3回まばたきして、目を開けたら、きっと来る!」やってみたけど、先輩は現れません。もしかして蒲田駅前のモヤイと間違えたのかも…。「あと3台バスが出てったら、きっと来る!」5台見送ったけど、やっぱり来ません。もしかして、からかわれたのかも……………。
だんだん自分が、世界でいちばんみすぼらしい女の子に思えてきました。ほかの女の子たちは、次々と王子様が現れて去っていきます。みんな幸せそう。だいたいあんなかっこいい先輩が、わたしなんかをデートに誘う理由がないのです。寒い風が吹いてきました。いつのまにか吹雪になって、5月というのに、わたしだけ真っ白い雪に埋まってしまいました。すると、
「寒いからやめてくんない。」背後から、モヤイが言いました。「寒いこと考えたでしょ、今。」「え?…はい。」「オレ寒いの苦手なの。新島出身だから。」「 モヤイさん、イースター島じゃないんですか?」「あれはモアイ。ここに書いてあるから、よく見な。オレたちの故郷は新島よ、サーフィン天国よ。のお、インジイ。」「おーよ。」返事をしたのは、反対側のインジイ(おじいさん)です。モヤイの裏に、もうひとつ顔があるなんて知らなかった!よく見ると小さな立札があって、『モヤイ』とは新島の言葉で『力を合わせること』とあります。
「おじょーちゃん、オレとモヤらない?…なーんちゃって。」「……」「彼氏にフラれたか。かーいそーに。キャラメルマキアート奢ってやろーか。」「…結構です。」「暇つぶしに、オレの話、聞いちっちくれねーか?」返事も聞かずに、モヤイは喋りはじめました。新島の海がどれほど美しいか。ウンバア(おばあちゃん)のシイッコ汁(カメノテの味噌汁)が、どれほど旨いか。毎日渋谷の空を見上げながら、どれほど新島に帰りたいか…。「いしゃあ(君は)、オレたちに比べりゃー、ずっとましじゃ。オレもインジイも家族や仲間と引き離されて、突然見知らぬ都会に連れてこられたのよ。あークニに帰りてー。アシタバ食いてー。アカイカ食いてー。ちーちっち(連れてって)。ここはGKK(ごっつ空気汚い)で、MK1(マジギレ1秒前)だっちゅーの。のお、インジイ。」「おーよ。」…やれやれ、新島弁と渋谷弁がごちゃまぜだわ。
「覚えててくれ、じょーちゃん。いつかクニに帰るのが、オレの夢じゃ。」「どうやって帰るんですか?」「決まってるだろーが。台風の大波に乗っていくのよ。♪サーフィンU.S.A、イエ~。」「大波ったって…」「今日はいい波来なくても、明日はくるかもしれない。…信じればこそ、人は生きられるのじゃ。あきらめたらそれまでよ。うじうじ考えてるとチャンスが逃げてくぜ。人生に同じ波は二度と来ないのよ。」「はあ…。」「ある日、渋谷からモヤイが消えたというニュースを見たら、オレたちが故郷に帰ったと思ってくれ。」わたしは、サーフボードに乗って、台風の空を飛んでいくモヤイ像を想像しました。ス、スゴいかも…。「お、誰か来たようだ。じゃーな、じょーちゃん。新婚旅行は新島にしな!」「おーよ。」モヤイたちは黙って、石に戻りました。
「遅くなってごめんなさい。」振り向くと、知らない人が立っています。金髪のおかっぱ頭の女の人。なあんだ、がっかり。人違いと思ったら、「あたしよ、よわこちゃん。」 ななななんと!その女の人こそ『舶来王子』…ニシ先輩だったのです。(つづく)