今日も、わたしはよわこです。
五月晴れなのに、心は晴れません。大好きなティム・バートンの映画『アリス・イン・ワンダーランド』を観に行くつもりだったのに、アイマックスのチケットが取れなかったのです。ちぇちぇちぇ! しかたないので、洗濯しました。洗濯機のフタを開けたら、洗濯モノがいっぱい。「ジーパンが泥だらけ…お母さんたら、また木登りしたのね。お父さんの靴下クサーイ!洗剤いっぱい入れちゃえ。」 家族全員の衣服をかき混ぜて、洗濯機がグィングィン回り始めました。と思ったら、あれ? ビーと鳴って、急に動かなくなりました。
「もう寿命ね。20年使ったんだもの。よく働いてくれたわ。」と母。…なんと。わたしより年上の洗濯機だったのか! 「どうしよう…。」「今日のところはコインランドリーを探すほかないな。調べてみよう。」 父がパソコン検索すると、シマヅヤマの女子大学近くに一軒ありました。今は何号機が稼動中で、残り運転時間があと何分か、パソコンでわかるんだって。きっとピカピカのハイテク・コインランドリーね!
そこはタバコ屋と中華料理屋に挟まれた、ちいさなちいさなコインランドリーでした。いつもなら、通り過ぎてしまったところ。ドアが開けっ放しなのに、『ノックすること』と貼紙があります。…ちょっとイバってる感じ。誰もいないけれど、ノックして中に入りました。湿った匂いがむーんとして、乾燥機がブンブン回る音がします。天井が低くて暗くて、ちっともハイテクじゃないみたい。折りたたみテーブル、アルミの灰皿、ゴミ箱、ビニールの椅子と木の椅子がふたつ、どちらもボロボロで座りたくない感じ。ヤカンやカゴや雑誌や使い古しの紙袋やゴミのようなものが山のように積み上げられていて、今にも崩れてきそう。
壁は貼紙でいっぱいです。手書きのマジックで、『紙袋は自由に使ってよろしい』『マンガ・雑誌は家に持ち帰ってよい。ただしあとで返却すること』『ここに缶やペットボトルを捨てないこと』とか、いちいち指示が書いてあります。オーナーは仕切りやさんかしら。『日本の古いことわざです。一、馬鹿の開けっ放し 二、馬鹿のやりっぱなし 三、のろまの三寸』というおかしな貼紙は、何枚も何枚も貼り付けてあります。フタを開けっ放しにする、マナーの悪い人が多いんだわ、きっと。
さあ、お洗濯しなくちゃ。洗濯機を開けたら…うそ!…ラッコです。回りながらお腹の上で貝を割っています。「開けっ放ししないで!貼紙が見えないの?」「す、すみません!」
あわててフタを閉めました。ああ驚いた。もしや、と思って乾燥機を覗いてみたら…回転するドラムの中を走る、リスと目が合いました。ウィンクしてます。ここはいったい?!
と、とにかく早く洗濯しなくては。となりの洗濯機をそーっと開けたら、よかった、空です。1回20分 250円とあります。コインを入れたら…タイヘン!洗濯機がガタガタふるえて店中が音を立てて、洗剤の泡はブクブク膨れあがり、週刊誌がいっせいにバサバサ鳩のように飛び回って、壁の貼紙が大合唱しはじめました。
「♪ おじょうちゃん~よ~くきけよ、にほんのふる~いことわざで~す、アソ~レ、ひと~つばかの~あけっぱな~し~、ほ~いほい、ふた~つばかの~やりっぱな~し~、ほ~いのほい、みっつのろまのさんずん~、ほいほいのほ~い」
耳ざわりなこの歌は、洗濯が終わるまでリピートしつづけました。その間、ヘンテコな山高帽をかぶったおじいさんが自転車で乗りこんできたり、大きなトラ猫がイモムシを追いかけて飛び込んできたり、コショウのビンが飛んできたり、卵が落っこちて割れたり、ウミガメが洗濯機の上でタップ・ダンスを踊ったり、ハリネズミが床を転がってきたり、まあ、にぎやかなこと。
20 分後に懐中時計を持ったウサギが入ってきて、「時間だよ!」と言いました。すると、みんなおとなしく外へ出て行きました。ウサギは、「開けっ放しにしたら、オーナーの女王様に首をちょん切られるよ!」そして「ああ忙しい!」と言いながら乾燥機の中に入っていきました。もちろん、フタはキチンと閉めて。
壁の貼紙が、「もう1曲どう?」と聞いたけれど、「結構です。」と断りました。こんなに騒々しいのはごめんだわ。洗濯モノはうちのベランダで干すことにしよう。
ワンダーランドは、別にアイマックスじゃなくても、どこにでも存在するのね。やれやれ!お父さんに早く洗濯機を買ってもらわなきゃ。