あちこたねぇ
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宮原芽映
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2枚ワンセット
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チキナー

よわこの日記 ARCHIVE   Posted on 06 03rd, 2012   Yowako  

よわこ
今日も、わたしはよわこです。
母のお友達のミツコおばさんが、お芝居に招待してくださいました。ミツコおばさんは、ダンスの振付師。芝居は時代劇でしたが、なぜかダンスがいっぱいあっておもしろかったです。終演後、お礼を言って帰ろうとしたら、「よわこちゃんも打ち上げにきていいわよ。」と言われたので、あとについて焼き鳥屋さんに行きました。
演劇の人たちも「打ち上げ」することを、はじめて知りました。ライブとおなじね。「お疲れさま~!」役者さんとスタッフが集まって乾杯です。お店の中は煙がもわもわ、狭いところに人がぎゅうぎゅう座ってすごい熱気…知らない人も、知り合いみたいな気がしてきます。さっきまで悪いお侍だった男の人が、冗談を言いながら、ビールを飲んでいます。役者さんは、みんな舞台の上とぜ~んぜん別人!…大きな声で言えませんが、打ち上げはお芝居よりおもしろいかも。
それにしても、おなかがへった…。演劇って、観るだけでおなかすくのね。「へい、おまちどう!」わーい!焼き鳥の盛り合わせのお皿に手を伸ばしたら、「ダメよ、よわこちゃん!!!」 とつぜん、ミツコおばさんが叫びました。怒られたかと思ったら、ニコニコ笑っています。おばさんは声が大きいだけで、べつに怒ってませんでした。そういえば、ここにいる人たちは、みんな声が大きいです。
「焼き鳥は、串ごと食べちゃだめよ。ほら、こうすれば、みんなで食べられるでしょう?」そう言いながら、ミツコさんはお箸で、鶏肉を串から外しました。役者さんたちはふつうギャラが高くないし、チームプレイだから、分けあって食べるのが礼儀だそうです。なるほど!ギャラが高くないのは、母のライブも同じ!わたしもお手伝いしてみましたが、串にお肉がくっついて、うまくできませんでした。「串を回しながら抜いてごらん。」やってみたけれど、やっぱり外れません。力を入れたひょうしに、あ!…鳥肉が一切れ、遠くへ飛んでいって、知らないおにいさんが口でパクリ!
お店中が、拍手喝さいの大笑い。…ああ、恥ずかしかった!
 
数日後、両親と日本橋の焼き鳥屋さんに行きました。
打ち上げのときと違って、静かで上品なお店です。テーブルのナプキンの上に、お箸と並んで小さいフォークのようなものが置いてあります。???…先が二股に分かれた、熊手のような…「これ何ですか?」と父が尋ねたら、「串からお肉をはずして食べるフォークです。これを使えば、お手元お口元きれいなままお召し上がりになれます。」と、着物を着た女の人が答えました。父のスマートフォンで検索したら、それは京橋・伊勢廣という焼き鳥屋さんが開発した『チキナー』という名前のフォークでした。1本360円くらい。もっと安い、『串とーり』というフォークもありました。これは便利!これなら楽にお肉が外せそう。今度ミツコおばさんにプレゼントしよう!
そのときです。「少しは私たちのことも評価してください!」と、串入れに刺さった串が抗議しはじめたではありませんか。「焼き鳥は串がなければただの炭火焼。串があればこそ、焼き鳥もチキナーもこの世に存在するのです。ところが、こんなに役に立っているわれわれの存在は誰にも気づかれない。外されて捨てられるだけ…不公平だと思いませんか?」すると、「そうだ、そうだ!」と他の串たちも声をあげました。「人間だって同じはずです。自分勝手を自由と刺し違えた人間がはびこっている昨今、串のような人間たちは目立つことなく人のために働いて暮らしています。彼らこそ人と人、いや地球上のすべての生き物をたちを繋ぐキーパーソンであり、人知れずこの世界を支えているのです。」
「は… はい。」
串たちは、焦げた頭でつんつん踊りながら、串入れの中で歌いはじめました。
 
♪串がなけりゃバンバ この世はバラバランバ 串カツおでんにヤキトリ メザシギンナンダンゴもバラバラ ヤリバヤリバ ウナギ蒲焼肝焼シシカバブー ホラ一丁 もう一丁 バンバ・バンバ バンバ・バンバ…
 
どっかで聴いたことある曲ね。しばらくすると今度は、とんがり頭をくっつけあって、メリー・ゴー・ラウンドのようにぐるぐる回りはじめました。
 
♪く~し~はエ~ラい~ く~し~はつ~よい~ 串で刺~せば~世界はひ~と~つ~
 
…これってディズニー・ランドの『イッツ・ア・スモール・ワールド』みたい!
「よわこさん、どうかあなたも将来、串のような立派な女性を目刺してください!…以上、NPO法人『串で繋ごう、世界の絆の会』からの提案でした。」…そう言うと、串たちはつぎつぎと串入れから飛び出し、並んで歌いながら店を出てゆきました。どうやら、これから銀座通りをデモ行進するらしいです。
 
「よわこ~、早く食べないと帰るわよ。」母の声にハッと気がつくと、ふたりともすっかり食べ終わって帰り支度してました。やれやれ!