今日も、わたしはよわこです。
桜満開のとき、公園の桜の下で、おばあさんが3人集まってお花見をしていました。となりのベンチで爽健美茶を飲んでいたら、おばあさんたちの会話が聞こえてきました。
「きれいねえ。」「ほんとねえ。」「さやかちゃん、来られなくて残念だったわね。」「しかたないわよ、ギックリ腰じゃ…。」それからしばらく、持ってきたお弁当を食べながら、リハビリの話に花が咲きました。
「そういえば新しいリハビリの機械、あなた知ってる?」「あれね、整骨院で聞いたわ。」「そう、あれよ。私買ったけど、超すごいのよ。」「どんなふうに?」「車椅子がマッサージ・ロボットに変身するの。」「へえ~。まるで映画の『トランスフォーマー』ね。私観たわよ。シリーズ49。」
……え?『トランスフォーマー』は、先日DVDで見たばかり。シリーズ49なんてあるの?…聞いてるうちに、わたしはなんか変だなあと思いました。
「『パイレーツ・オブ・カリビアン』は、シリーズ53よね。」「よくやるわ。ジョニー・デップ、もう90過ぎよ。」「うっそォー!あんなにセクシーなのにィー?」「特殊メイクでしょ、きっと。」
……これはヘン、絶対ヘンです。すると、ポケットの中からヤモリのゲコが顔を出して、あれは『50年後の女子高生たち』だと、言いました。ほ…ほんとだろうか?
「メイクといえばさあ、あなたスゴかったわよね。50年前の、あのガングロ!」「まあ。オホホ…うちの孫が写真見て『オバケ』ですって。そう言うあなただって。」「あたしはアキバ系でしたもの。」「メイド喫茶、懐かしいわねえ…」
……やっぱりほんとうみたい。わたしは手にしたペットボトルを、あやうく落とすところでした。
「今思うと、よくまあ、あんなに頑張って厚化粧できたものよねえ。」「電車の中でもねえ。あれ大変だったわよ…なんてったっけ…まつげビューラー!」「近頃じゃめんどくさくて、化粧どころか口ヒゲも剃らないのにねえ。オホホ…」
……どうしよう。わたしはどきどきして、その場を立てなくなりました。
「そのイヤリング、素敵ね。」「電話付き補聴器よ。音楽も聴けるのよ。」「へえすごい。メールはどうすんの?」「送るときは、喋ればいいの。内蔵マイクが感知して、自動的に文字に変換されるの。英語にも翻訳できるのよ。」「それってスゴすぎ。」「…ただ、困ったことがあってね。関西弁は翻訳できないの。教科書みたいに発音しないと、ヘンな文章になるのよ。」「難しそうねえ。」「『田町』が『ハマチ』になったり、『浜松町』が『甘納豆』になったり。」「笑える~。」
そのとき、一人のおばあさんが、メガネをいじりながら言いました。「あたしのは、立体カメラ付きよ!」おばあさんがメガネをこすると、青い光線がパーッと出てきて、目の前に小さな男の子が現れました。「孫の太郎よ、かわいいでしょう?」
「あら大変、嫁からメールだわ。」イヤリングのおばあさんが、あわてて言いました。「なんだって?」「早く帰ってこいって。」「まだ、来たばかりじゃない。」「ごめんなさいねえ。気がきかなくて。」「うちの嫁もそうよ。困ったもんだわ、まったく。最近の若い人たちときたら。」
おばあさんたちはベンチから立ち上がりました。「あら、あなたまだルーズソックス履いてんの。」「だってあったかいんだもん。」
「じゃあ、またね~。」「また来年も、一緒にお花見しましょうね。」そう言って、おばあさんたちはピンクに霞んだ桜並木の向こうへ消えてしまいました。
…あーびっくりした。やれやれ。満開の桜の下では、どうやら不思議なことが起こるみたいです。不意に風が吹いて、花びらがひらひら、飛んでゆきました。わたしは50年後の自分を想像してみました。…けど、まったく想像できませんでした。